自分史

「真水に魚住まず」それでも私は理念を選ぶ

ボランティア活動を経てヘルパーと社会福祉士の資格を取得した私は、数年後、晴れて同じ施設の職員として入職しました。

与えられた役職は相談員でしたが、私は「すべては現場で起こっている」という信念を持っていました。そのため、人が足りなければトイレ誘導やおむつ交換、食事介助といった現場の介護業務も率先して行いました。当時の介護課長や他の相談員は現場の仕事に一切関わらないスタンスでしたので、私の行動を快く思っていなかったかもしれません。しかし私には、まず現場の仕事を一通り把握したいという強い思いがありました。

この経験を通して、介護者の視点で物事を考える力が身につきました。例えば、新しく入居される方の情報を介護スタッフに共有する際も、「自分が介護するなら何が必要か、何に困るか」を具体的に想定し、的確なアセスメントができるようになったのです。

数年が経つ頃には、私の働きが周囲に認められ、施設運営の中心的な役割を担うようになりました。その一方で、旧来のやり方を変えようとしなかった介護課長と施設長は相次いで退職していきました。今思えば、彼らの目的は組織の理念よりも、ご自身の自己実現にあったのかもしれません。

当法人の理念は「真実の瞬間の重視」、つまり常にご利用者の利益を100%追求することです。「真水に魚住まず」という言葉がありますが、理念を純粋に追い求めた私は、まさに組織にとっての「真水」のような存在だったのでしょう。

これが、自己実現を優先する集団だった組織を、本来あるべき姿へと変えていく意識改革の始まりでした。