自分史

20年振りの施設の変化と決意

在宅介護支援センターを退職後、私は、祖父の作った特別養護老人ホームに、ボランティアで入りました。何故、すぐに職員として入らなかったかというと、実態調査のためだったからです。当時、施設内診療所の医師であった母は、経営はできないとのことで、知人の紹介で、一般企業から来た二人の男性を呼び、施設長と介護課長として、運営を任せていました。しかし、それからというもの、利用者の人権が守られていないことが増えるようになり、母から改革ができるのはあなたしかいないと頼まれました。そこで、警戒されないように、勉強中で何もわかりませんという立場を取りながら、雑用でも介護でもなんでもやりますよというスタンスで入ることにしたのです。予想通り、施設長も介護課長も快く引き受けてくれました。

子供の頃から慣れ親しんできた施設に久しぶりに入るのは、小学生高学年で行ったボランティア以来でしたが、20年振りに見た施設は、全く別の場所となっていました。。

廊下には、認知症の利用者の方々が、車椅子のまま向かい合わせで並ばされており、まるで物のような扱いをされていました。また、暴言を吐くような迷惑行為をする利用者の方については、逆に機嫌を取り、嫌われないようにイレギュラーなルールを作り、リスク管理もめちゃめちゃで、もはや素人集団の対応となっていました。福祉を学んでいない方々が幹部ですから当然かもしれませんが、人権を守るという土台がない方々であることは、すぐにわかりました。徐々に職員も同じような人ばかりになっていき、人権を守る人はどんどん退職していきました。この異様な状況をなんとかしなければならないと決意した瞬間でした。

『箸よく盤水を回す』という言葉があります。

意味としては、箸一本で盤水を回しても箸しか回らないが、その箸を根気よく熱心に回し続けると、周囲の水が少しずつ回るようになり、さらに回し続けると一段と輪が広がり、最後には盤水全体が渦のように回るという意味です。小さな努力を続けると、大きな力になる。決してあきらめてはいけないという意味です。

施設でのボランティアは1年間続きましたが、この言葉を毎日唱えて、ひたすら耐えながら、一通りの仕事を把握しました。そして、この間に介護課長と施設長はもちろんのこと、職員との人間関係と、私への信頼を構築しました。

ボランティアの最後の日に、施設長に一つ質問をしました。

「仮に将来、ご自分が認知症になったら、この施設に入りますか?」

施設長の答えは「いや~、僕はこんなところ入りたくないよ」

・・・・・・・・・こんな人に、施設は任せられないと決意した瞬間でした。

その後、私は、相談員として入職しました。入職する前に、施設長から呼び出され「オーナーのお孫さんだからと言って、私たちのやることに口をださないでくださいね」と言われました。

いよいよ、ここから、私の本当の改革がスタートするのです。

その時の気持ちは、ワクワクでした。(笑)